下水道料金・排水経費削減の3つの注意点【弁護士が解説】

「下水道料金 削減」等のキーワードで調べると、排水処理設備やメーター設備の施工業者のホームページが出てきます。施工業者のホームページを読むと、下水をキレイにする又は下水量を正確に測定すれば、下水道料金を削減できると思われるかもしれません。

しかし、下水道料金を削減できるのは排水処理設備やメーター設備を導入したからではありません。
下水道料金は法律及び条例によって定められており、法律・条例の要件を満たさないと下水道料金は削減できません。施工業者のホームページにも、自治体の協議・許可が必要である旨が小さく注意点として書いてあるはずです。下水道料金を削減するためには、法律・条例の仕組みを理解する必要があります。そうしないと、本当は不必要な設備を購入させられて損をしてしまうかもしれません。

この記事は下水道料金・排水経費が削減できる仕組みを解説します。日本で数少ない下水道法に関して詳しい弁護士が具体的な実例を踏まえて解説いたします。

 

執筆者:弁護士 坂尾陽(Akira Sakao -attorney at law-)

  • 2009年 京都大学法学部卒業
  • 20011年 京都大学法科大学院修了
  • 2011年 司法試験合格
  • 2012年 森・濱田松本法律事務所入所
  • 2016年 アイシア法律事務所設立

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ポイント①:排水処理設備よりも法律論に注意

 下水道料金が削減される法的根拠

まず、下水道料金・排水経費がなぜ削減できるのかを把握しておく必要があります。そもそも、あなたが下水道料金・排水経費が削減できるのは、あなたの事業場が法律及び条例の要件を満たすからです。

従って、下水道料金・排水経費の削減は、どのような設備を導入するかではなく、きちんと法律論を踏まえて検討をする必要があります。下水道料金・排水経費が削減される理由は法律問題であることを認識することが重要です。

下水道料金削減の法律・条令

それでは、あなたが下水道料金・排水経費を削減するためには、どのような法律論を理解しなければならないでしょうか。これは、「下水道法」という法律と各都道府県が定める「下水道条例」などの名称の条例です。

下水道料金・排水経費に関して法律及び条令は、原則として、以下の考え方により成り立っています。

  • 事業者は下水を公共下水道に流入させる排水設備を設置しなければならない
  • 公共下水道に下水を流入させて使用すると下水の量に応じて下水道料金を払わなければならない
  • 下水の量は上水の量と原則として一致する

つまり、上水(綺麗な水)は事業場で下水(汚い水)となって公共下水道に流れているので、下水道料金を支払ってねということです。具体的には、下水道料金は原則として上水の使用量と一致するとして連動して算定されます。

下水道料金削減のポイントとなる2つの例外要件

ここで、何度か「原則として」と強調するのには理由があります。実は、上記で述べた法律及び条例には数多くの例外があります。実は、あなたが下水道料金・排水経費を削減するためには、この例外要件を満たさなければなりません。

下水道料金に関する主な例外要件の考え方
  • 下水は必ずしも公共下水道に排水しなくてOK
  • 上水の量と下水の量が一致しない場合がある

つまり、下水を公共下水道に排水していない場合は、公共下水道を利用していないので下水道料金はかかりません。また、上水と下水の量が違うときには、上水に基づいて算出される下水道料金を下回る下水道料金を支払えば良いのです。

 

都道府県と法律論で交渉することが重要

したがって、あなたが下水道料金や排水経費を削減することを望むのであれば、どのような設備を導入するかではなく、都道府県の担当者としっかり法律論で交渉をする必要があります。

業者によっては、法律論を理解していないために、都道府県の担当者が強気な態度を見せると諦めるところもあるようです。
しかし、下水道法は弁護士ですら詳しくない人が大半なため、都道府県の担当者は全く無知であることも多いです。このような場合は、あなたが下水道料金・排水経費を削減するために、都道府県の担当者に対して丁寧に法律論を理解させること(=交渉)が必要となります。

もし、都道府県の担当者が言うことが不合理である場合や、排水処理設備やメーター設備の施工業者場合は、弁護士が交渉することが考えられます。弁護士が、法律・条例に照らして適切な意見を述べることで、下水道料金の削減に成功できる場合もあります。もし、下水道料金の削減について弁護士に依頼したいときは、まずは法律相談でお問合せください。

 

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下水道料金削減事例は都道府県ごとに違う

下水道料金を削減するためには条例が重要

下水道料金・排水経費削減は、排水処理設備ではなく、法律論が重要であることを説明しました。また、法律論は、「下水道法」という法律と各都道府県が定める「下水道条例」などの名称の条例があることも説明しました。

このうち、下水道料金・排水経費削減を考える上で重要なのが条例です。条例とは、都道府県が定めるミニ法律のようなものだとご理解下さい。

下水道条例は都道府県単位で定められる

ここでのポイントは下水道条例は都道府県が定めるものであるということです。法律論は全国で統一されていると思っている方もおられるかもしれません。しかし、法律だけでなく条例も関わる分野については、法律論も都道府県単位で大きく異なります。

下水道料金・排水経費削減が厄介なのは、下水道法という全国統一の法律ではなく、都道府県単位で内容が異なる下水道条例が重要な役割を果たしていることです。

都道府県が異なれば削減事例も無意味

「条例が異なるといってもマイナーな点だけでしょ。他の都道府県で下水道料金・排水経費の削減が認められるなら、あなたの都道府県でも認められないと不公平だ。」と思っておられるとしたら、それは甘い認識だと言わざるを得ません。

下水道料金・排水経費は、先ほど述べたように、あくまで例外的な要件を満たした場合に認められるものです。いわば例外的な恩恵ですので、どこまで恩恵を与えるかは都道府県毎に異なっているのです。
下水道条例がどのような例外を認めているかは都道府県によって異なります。したがって、施行業者のホームページに削減事例が乗っていたとしても、都道府県が異なれば、その事例は何の参考にもなりません。

必要なのは条例を踏まえたアドバイス

下水道料金・排水経費削減についてお問合せをされる場合は、あなたの事業場がある都道府県をしっかり伝えた上でご相談するようにしましょう。条例を踏まえたアドバイスがない場合は要注意です。

もっとも、条例は都道府県毎によって異なるので、即答できる場合は多くありません。良心的で、法律や条令の知識がある業者の場合は、あなたの都道府県を聞いた上で、あなたの都道府県の条例を踏まえたアドバイスをしてくれるはずです。

 

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ポイント③:下水道料金削減の許可が下りない場合も諦めない

簡単には下水道料金削減に必要な許可は下りない

まず、下水道料金・排水経費の削減は、単に排水処理設備を導入すれば良いものではなく、法令・条令(とくに都道府県毎に異なる下水道条例)の例外要件を満たす必要があることを説明しました。
しかし、実は下水道料金・排水経費の削減に必要な許可はなかなか下りません。これは、そもそも例外的な許可を得ようとしていることから、やむを得ないことです。

許可が下りない3つの事例

下水道料金・排水経費の削減に必要な許可が下りない場合は以下の3つのケースが考えられます。

  • 法律論から絶対に認められない
  • 都道府県の担当者が理解を誤っている
  • 下水道条例・内規に従った要件を満たしていない

 

このうち、下水道料金・排水経費の削減が絶対に認められないのはどのケースでしょうか。当たり前のようですが、法律論から絶対に認められないケースです。

ここで違和感を覚えられたかもしれません。実は、下水道条例・内規に従って要件を満たさないケースであっても、下水道料金・排水経費の削減が絶対に認められないわけではないのです。詳細は後に解説しますが、実は下水道条例・内規が違法であるため、必ずしも下水道条例・内規に従っていなくても、下水道料金・排水経費の削減を実現できる場合もあります。

したがって、下水道料金削減に必要な許可が下りなくても諦める必要はありません。

 

意外と多い下水道料金削減の裁判例

都道府県の担当者が誤解している場合又は下水道条例・内規に従った要件を満たしてない場合、都道府県との交渉だけでは下水道料金を削減できません。これは、担当者や下水道条例が間違っているのですが、都道府県が自ら間違いを認めることは考えにくいです。

施行業者やコンサルタントは、(本当は間違っているにもかかわらず)都道府県が強硬な態度を示すと、下水道料金・排水経費の削減を諦めてしまう場合があります。なぜなら、施行業者・コンサル担当は法律・条例の専門家ではないため、法律・条例に照らして正しいロジックを導くことができないからです。しかし、都道府県の担当者や下水道条例が間違っている場合、適正な手続を踏まえれば下水道料金・排水経費の削減を実現できることもあります。

実は、下水道料金・排水経費の削減に関する裁判例は意外と多く存在します。これは、都道府県の担当者や下水道条例が間違っているため、きちんと法律の専門家である弁護士に依頼して下水道料金・排水経費の削減を行う方が多いことを示しています。

なぜ、都道府県の担当者や下水道条例が間違うかというと以下の理由があるからです。

  • 下水道条例は非常に重要な役割を果たす
  • 下水道条例は都道府県毎に異なっており、解釈が難しい
  • 担当者が正確に理解していない又は(国が関与していないため)下水道条例が違法となる

 

下水道料金削減に関する裁判の勝訴率約67%

それでは、下水道料金・排水経費の削減に関する裁判を提起して、どの程度勝訴するのでしょうか。事業者が下水道料金に関して争った裁判例を検討すると、概ね約3件に2件は勝訴しており、勝訴率は約67%です。

あなたが支払っている下水道料金が多額であり、毎年支払わなければならないことを考えると、裁判で争えば2/3の確率で下水道料金・排水設備を削減できることは非常に有意義なのではないでしょうか。

なぜ、裁判の勝訴率が約67%も高いのかというと、裁判所は概ね以下のような考え方を持っているようです。

  • 下水道料金はあくまで下水の量に応じて定められるべきであり、どの程度下水の量があるかを厳密に測定するべき
  • 下水道条例は大雑把にしか下水の量を測定していない
  • 下水処理の技術が発展したので、大雑把な下水道条例の測定方法ではなく、きちんと下水の量を測定して下水道料金を設定するべき

    要するに、下水道料金に関して条例の考え方は大雑把だということです。たしかに、下水処理技術が発達する前においては、大雑把な条例の考え方も合理性がありました。しかし、下水処理技術が発達した現代においては、大雑把な条例の考え方に合理性はなく、下水量に応じて正確な下水道料金を課すべきだというのが裁判所の考え方です。

    したがって、あなたが下水の量をきちんと主張立証して裁判で争うと、裁判所は下水道料金・排水経費の削減を認めてくれるのです。

     

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    きちんと許可が下りるように弁護士に相談する

    しかし、そもそも裁判所で争うことは、あなたが今後事業を行う上で望ましいとは言えません。他方で、下水道料金・排水経費の削減が認められないのでは困ります。
    したがって、最初から都道府県と交渉を行うときに、下水道法・下水道条例についてきちんと理解をした上で、弁護士と相談した上で下水道料金・排水経費の削減を進めるのが望ましいと言えます。
    もし、下水道料金・排水経費の削減に必要な許可が下りない事例だと言われたとしても諦める必要はありません。法律の観点に照らして本当に下水道料金・排水経費の削減ができないのかを再度検討しましょう。

    まとめ

    下水道料金・排水経費の削減を行う場合の注意点について解説しました。重要な点を再度まとめておきます。

    • 下水道料金・排水経費を削減するためには、排水処理設備ではなく、きちんと法律・条令を理解することが重要
    • 都道県単位で定められた条例が重要なので、削減事例をチェックする場合は都道府県に注意
    • 都道府県の担当者や下水道条例が誤っている場合もあるので、下水道料金・排水経費の削減ができないと都道府県から言われても諦める必要はない
    • 下水道料金・排水経費を裁判であらそった事例では約67%が勝訴している
    • 都道府県の担当者と交渉を行う段階から弁護士に相談する。

     

    下水道料金・排水経費の削減は、是非、弁護士にご相談ください。当事務所においても、事案によりますが、事業者からの下水道料金・排水経費の削減についての法律相談に対応しております。排水処理設備やメーター設備の施工業者が頼りにならないときは、弁護士であればお役に立てることもありますので、是非ご相談ください。

     

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